野杁正明、渾身の打ち合いも判定0-3敗北　ハイキック応酬に観客どよめく

野杁正明選手とスーパーボン選手の一戦は、タイトルマッチという枠を超えて「格闘技の残酷さと美しさ」が正面からぶつかった試合だったように感じます。結果としては判定0-3で敗れ、待望だった王座統一には届かなかったものの、この5Rの攻防は簡単に語り尽くせるものではありません。それほどまでに両者の攻撃と気迫は、まさに有明アリーナの空気を変えてしまうほどの凄みがありました。

　特に序盤、野杁選手が距離を丁寧に詰めながら、鋭いジャブとローで試合を組み立てていく姿は「勝てるかもしれない」という期待を抱かせました。実際、スーパーボン選手も明らかに警戒している様子で、野杁選手の圧に少し押されているように見える瞬間もありました。しかし、2R以降にスーパーボン選手が見せた左ハイキックと膝のタイミングは、さすが“正規王者”と言うべき精度で、ここで流れが一気に傾いたという印象です。

　それでも野杁選手は下がらず、ボディへの膝やパンチで相手のリズムを崩しにいく姿勢を貫きました。技の威力だけではなく、「諦めない意思」がそのままパンチの重さになって伝わってくるような時間帯で、観客がどよめいた場面も多かったと思います。4Rに入ってからの激しい打ち合いは、もはや勝ち負けよりも「どちらが最後まで立っていられるか」を賭けた精神戦に見えて、見る側も身を縮めながら画面やリングを見つめてしまうような緊張感でした。

　最終5Rの攻防も、勝負を決めにいくというよりも、お互いに格闘家としての意地をさらけ出すような消耗戦で、このラウンドを見て「判定という結果以上の価値がある」と感じた人も多かったのではないかと思います。ジャッジは3者ともスーパーボン選手を支持しましたが、その内容は一方的ではなく、実際に見たファンの意見も大きく割れている程度には、野杁選手が要所で強さを見せていました。

　今回の敗北で王座統一は叶わなかったものの、野杁選手は3月にタワンチャイ選手をKOで沈めた実績がありますし、今回の試合でもフェザー級トップクラスに相応しい実力は十分に示していました。タイトルに届かなかった事実は重いですが、今日の5Rを見て「まだ終わりではない」「もう一度見たい」という気持ちが強く残りました。むしろ、今回の敗北が次の成長につながる気配すら感じさせます。

　野杁選手がまたベルト戦線に戻ってくるのは時間の問題だと思いますし、今回のスーパーボン戦がそのターニングポイントとして語られる日が来るのではないでしょうか。負けた試合なのに深い余韻が残るのは、それほどまでに野杁選手の戦い方が胸を打つものだったからだと感じます。今後の再戦や階級の動きも含めて、まだまだ目が離せません。